電話応対でCS向上コラム

第27回 「教えるコミュニケーション、教わるコミュニケーション」③ 適材適所に生かす

電子機器による情報化がここまで進むと、個々の人間の持つ適性や能力に目が行かなくなります。極端な言い方をすれば、人間は電子機器に従属するコマとしての存在になり、均一化した役割を無難にこなしてさえいれば、それで良しとされてしまいます。こうした傾向を踏まえて、今回は、最近あまり耳にしなくなった「適材適所」という言葉をコミュニケーションの立場で考えます。

適材適所に置いて力を伸ばす

指導的立場にある皆さんは、部下や後輩の指導にあたる際に、できれば部下後輩の一人ひとりがしっかりした判断力と技能を身に付け、一定レベルを保った有為な人材として、活躍してくれることを期待するでしょう。しかし、現実にはなかなかそうは行きません。人はそれぞれに持っている能力適性が違うからです。そこに画一的な期待を持つことには所詮無理があります。

指導育成とは、知識技能を提供することよりも、個々の能力適性を見極めることが大事です。そのためには、日常のきめ細かなコミュニケーションが必要です。それによって、部下の能力適性をつかみ、それを伸ばし、生かすことこそ人材教育の基本であり、適材適所の考え方につながります。

桂馬は桂馬、香車は香車

「素人が打つ将棋とプロの将棋とはどこが違うか分かりますか?」

もう数十年も昔、将棋の大山康晴永世名人にお会いしたときに、大山さんからこんな質問で試されたことがあります。もともとヘボ将棋レベルの私には答えようがありません。大山さんはこう言いました。「素人は、桂馬や香車に飛車角の力を期待してしまう。だから強くなれないのです。プロは、桂馬は桂馬、香車は香車の能力を存分に使い切ります。それこそがプロの将棋です」

当時まだ若造だった私には、名人のこの言葉の深い意味に思いを致すことができませんでした。そのことが分かったのはずっと後になってからです。大山さんの話は、将棋という勝負の世界の厳しい基本でありながら、同時に企業社会での人材の使い方、生かし方の要諦でもあったのです。

世界一丈夫な日本の石垣

江戸城や大阪城、熊本城や姫路城など、日本各地に現存する中世の城。その日本の城の石垣が、世界でも屈指の頑丈な構造であることをご存じでしょうか。戦乱は勿論のこと、地震や台風などの大きな自然災害にあっても、日本の石垣は容易なことでは崩れません。それは、日本の石垣が大小様々な大きさや形の石を、見事に隙間なく積み上げているからです。一方、西洋や中東の城やピラミッドの石積みは、何れも定型の石を幾何学的に積み上げています。整然としていても、その堅牢さでは日本の石垣にはかなわないそうです。この両者の比較を組織作りに応用した、「石垣理論」という組織論があります。

規格化された同一レベルの人材を揃えた組織よりも、ずば抜けて優秀な人材がいると思えば、お荷物になりそうなダメな人間もいる。それらを共に抱え込みながら、組織は壊れずに維持されている。そうした会社の方が最後は強いと言うのです。大岩から小石までがそれぞれの能力で立派に役立っているのです。人材育成にあたっては、大山永世名人の話とこの石垣理論をひとつの参考になさってください。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員会委員長。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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