電話応対でCS向上コラム

第19回 “違い”を尊重する~相手に配慮するということ~

第三者が当事者同士の話し合いを促し、トラブルを解決に導くメディエーション(調停)。前回は、ある若手社員が、配慮されていない、と感じた瞬間を例に、そこに隠された心のすれ違いについてお話ししました。今回は、人によって態度が変わる同僚に対して感じた違和感を例に、“相手に配慮する”ということについて考えます。トラブル収拾の極意を学び、当事者同士の相互理解を促すコミュニケーションの基本を身に付けましょう。

人によって態度を変える同僚への違和感

人によって態度を変える方、みなさんの周りにもいるのではないでしょうか?今回はそんな同僚を持つPさんのお話しを例に、相手に配慮する、とはどういうことなのかについて考えてみたいと思います。

Pさんの同僚は、上司の前では「自分を立ててくれる」が、同僚の前だと「自分をないがしろ」にすると言います。これをPさんは「相手(自分)に配慮していない」と感じています。続けてPさんは「人によって態度が変わることに不満というか、その人に対して不信感を抱いてしまう。つまり、不安を感じてしまうのです」と言います。

上司の前では礼儀正しく、同僚の前では少し砕けた彼がいる。一見当たり前のようにも思えますが、Pさんはそこに「同じ人が二つの役割を演じているように思えて、何だか不安。近づきたくないと思ってしまう」と言います。

こういった事例は、話し合い向きの事例です。聞いた人は各々意見を述べるでしょう。同席したJさんは「大人として当然の振る舞い」だと言うかもしれません。またHさんは「その人の本当は?本心ではどう思っているの?と、その人を疑ってしまうと思う」と言うかもしれません。同調できる方、できない方が出てくるからこそ、話し合いも活発になります。

対応もきっと、三者三様でしょう。当事者のPさんは「仕方ないこと。事を荒立てないようにしよう」と考え、同僚の方に同調できるJさんは「何とも思わない」と言うでしょうし、同僚の方に対して批判的な立ち位置のHさんは「反発してしまう」と言うかもしれません。

この意見の違いは、なぜ起きるのか?それも話し合ってみると良いでしょう。同調派のJさんはこれを「柔軟性の違い」だと言うかもしれません。当事者のPさんは「自分の存在に関わることなので、柔軟性の違い、で片付けるわけにはいかない」と言い、双方の意見はしばらく平行線を辿るかもしれません。メディエーターの役割は、このような中に入り、自分の意見を一先ず棚上げし、関係者のそれぞれ異なる意見を十分に引き出し、聴き、お互いの共通性と違いに気づかせることにあるのかもしれません。

大事なことは人によって違う

これは、大事なこと、というのが人によって異なることで生まれるすれ違いです。大事なことは、値段がついているかのように決まっているものではありません。そのため、意見も人によって異なるのです。しかし、何が大事かに優劣はありません。その違いを認め、尊重すること、それが相手に配慮する、ということなのです。

仕事を上手く運ぶには、人との関係性を高めることが重要です。職場において、配慮が必要なことは、みなさんお分かりでしょう。

その配慮とは何か、ということについて話し合いをする場合、参加者自身が対話の中でその答えに辿りつけるのが理想です。相手と自分は違うのだ、という理解に立ち、相手の考えを尊重することが配慮することなのだ、という答えに。

メディエーションにおいても、相手を尊重するという気持ちを持つことが大切です。相手を尊重しなさい、と言われたからするのではなく、「お互いの違いを前提に、尊重しようという気持ちを自らの中から生み出すこと」、問題解決の第一歩はそこから始まるのです。

稲葉 一人(いなば かずと)氏

中京大学法科大学院教授。東京・大阪地裁判事、法務省検事などを経て、現在本務のロースクールのほか、久留米大学医学部、熊本大学大学院などで教壇に立つ。また、日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会委員・専門委員会委員を務めている。米国に留学し、ADR(裁判外紛争解決)を研究し、メディエーションの教育者・実践者である。JICAを通じた海外の裁判所における調停制度構築のプロジェクトを進め、2012年10月にモンゴル国最高裁から「最高功労勲章」を授与された。

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