電話応対でCS向上コラム

第13回 自分も相手も大切にする「アサーション」

第三者が当事者同士の話し合いを促し、トラブルを解決に導くメディエーション(調停)。前回は、世代間による考え方の違いによって起きた意見の対立を例に、メディエーションの役割についてあらためて復習しました。今回は、意見が対立した際に有効な、自分も相手も大切にしたコミュニケーション「アサーション」についてご紹介します。トラブル収拾の極意を学び、当事者同士の相互理解を促すコミュニケーションの基本を身に付けましょう。

自分と相手を思う「アサーション」

意見が対立した場合には、大きく2通りの考え方があると思います。自分が正しいと信じ、自分の要求を通そうと主張を続ける方法、もしくは、相手の意見に従い、相手に譲歩する方法です。しかし、もし強引に自分の意見を通せば、お互いの人間関係に亀裂が生じる可能性もあります。逆に、へりくだって譲歩してしまった場合には、自分が尊重されなかったという感が残る場合もあります。それを未然に防ぐために有効なのが、「アサーション」という考え方です。

「アサーション」とは、自分も相手も大切にしたコミュニケーションのことです。これは、相手と向き合う際の心の姿勢とも関連します。自分を大切にするのであれば、「自分を適切に表現する」ことが必要です。相手を大切にするのであれば、「相手の話しを聴く」ということが必要です。また、話すうちに当初とは考えが変わっていく場合にも、変わっていくことへの“ためらい”をなくすことが重要です。

変に屈折せず、自分にも相手にも素直でいること。同時に、自分が尊重されるために、今いる相手を尊重すること。それは、意見が違う相手であっても、たとえ自分を傷つけた相手だとしても同じことです。常に、相手を尊重する、ということが求められます。

“私”を主語にすると伝わり方も変わる

職場には、見えない上下の関係や遠慮も存在しますが、まずは自分が「アサーション」を実践することで相手の反応は変わってきます。実践するためにはまず、「事実」と「感情」、そして「要求」を区別して話しをすることが必要です。事実と感情をごちゃ混ぜにせず“表現”し、要求はなにかを率直に述べましょう。感情表現は、しばしばその感情に自分がコントロールされてしまい、言葉が感情的になりがちです。また、自分の感情を見つめずに、感情を隠すこともあるでしょう。

しかし「アサーション」では、自分の感情を隠さず、感情を“表現”することが重要になります。そのためには、“私”を主語にして話すことが大切です。たとえば「あなたが悪い」と言われて素直に受け止められる人は少ないかもしれません。むしろ反論したくなったり、腹立たしく思うかもしれません。ですが、「私は寂しかった」と言われれば、どうでしょうか?このように、主語を“私”に変えるだけで、言葉の伝わり方はがらりと変わります。

そして要求は、相手が受け止められるサイズに小さくすることが大切です。ついつい最初から要求を複数提示したり、過大な要求をしてしまいそうになりますが、誰しも、最初から大きな決断をすることはできません。大きな決断をするためには、それなりの自身の考える助走距離と、相手との時間軸を共有した信頼関係が必要です。まずは自分の要求を、小さく1つにしてから提示することをおすすめします。

また、コミュニケーションをしていると、どうしても話しが逸れてしまうことがあります。それを相手が意図的にする場合もありますので、そんな時は「最初の要求に立ち返る」ことが大切です。常に「最初の要求」を意識して話すと良いでしょう。

※メディエーションは、「もしもし検定」のカリキュラムに導入されています。

稲葉 一人(いなば かずと)氏

中京大学法科大学院教授。東京・大阪地裁判事、法務省検事などを経て、現在本務のロースクールのほか、久留米大学医学部、熊本大学大学院などで教壇に立つ。また、日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会委員・専門委員会委員を務めている。米国に留学し、ADR(裁判外紛争解決)を研究し、メディエーションの教育者・実践者である。JICAを通じた海外の裁判所における調停制度構築のプロジェクトを進め、2012年10月にモンゴル国最高裁から「最高功労勲章」を授与された。

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