電話応対でCS向上コラム

第12回 世代間による意見の食い違い〜ベテランと若手の対立〜

第三者が当事者同士の話し合いを促し、トラブルを解決に導くメディエーション(調停)。前回は、調停のあとに、法律が関わっていることに気づいた場合の対処についてお話ししました。今回は、世代間による考え方の違いによって起きた意見の対立を例に、メディエーションの役割についてあらためて復習します。トラブル収拾の極意を学び、当事者同士の相互理解を促すコミュニケーションの基本を身に付けましょう。

避けることのできない世代間の対立

ベテランと若手。世代が違えば、環境も異なりますし、考え方も異なります。時に、ささいなことで意見が対立する、ということもあるでしょう。そんな時にもメディエーションは有効に機能します。

たとえば、業務終了時のお茶の片付けについて意見が対立したとしましょう。これまでは女性社員が最後に片付けをして帰っていました。これについて若手の女子社員が「残業する社員もいるのだから、片付けは翌朝にまとめ、さらに当番制にしてはどうか」と上司に提案をしました。上司はこれに賛同しましたが、女子社員の先輩グループは反発。人間関係もぎくしゃくし、ついには業務にまで支障が出るようになってしまいました。

こういった場合には、いきなりメディエーションを行うのではなく、まずは双方の話しをじっくり聞いてみると良いでしょう。ベテランの先輩グループにも、言い分は必ずあるはずです。とはいえ、ベテラン社員の中には新しい仕組みや取り組みに対して、後ろ向きの考え方の人もいるでしょうから、まずは、メディエーターとは何か、その役割とは何かをしっかりと伝える必要があります。

それを言葉にするならば、「私はメディエーターとして、みなさんの話しをとことん聴き、関係者の対話の仲介役に徹します。私が自分の意見を押し付けることはありません。最終的にどうされるかを決めるのは、みなさんです」と伝えてみてはいかがでしょうか。

もしかすると、先輩グループというだけで、面倒な存在だと思われ、社内でも彼女たちの話しをしっかり聞こうとする人間は少ない可能性もあります。つまり、場合によっては、「しっかりとあなたの話しを聞きます」という宣言そのものが、相手から信頼されるきっかけになるケースもあるのです。

少し脱線しますが、古参の女性社員が時に頑固な部分を見せることもあるかもしれません。しかしそれは古参な分だけ積んだ経験から、トラブルになりそうなことを事前に感じ取り、意見を言っている可能性も大いにあります。時に正論過ぎるその意見に耳を傾けることは、決して会社にとって損ではないはずです。

メディエーションで問題発生を未然に防ぐ

さて、話しを戻しましょう。お茶の片付けの問題について先輩グループはどう考えているのでしょうか。彼女たちの言い分はこうです。

「片付けはこれまで、一番若い人が進んでやる、というのが女子社員の中では暗黙の了解になっていた。なのに、急に当番制にするなんて、その必要性が分からない」

話しを聞いてみれば、このトラブルの問題が至ってシンプルなことが分かります。それは、対話が十分になされていない、ということです。

対話のなさは、仕事をスムーズに進める障害となり、会社全体の生産性を下げることにつながります。たとえ、ささいな思い違いや食い違いでも、それがきっかけで大きな事件に発展したり、会社にとって大きな損失になる恐れもあります。それを未然に防ぐ上でも、メディエーションを活用し社内の問題を解決することは、非常に有効な手段なのです。

※メディエーションは、「もしもし検定」のカリキュラムに導入されています。

稲葉 一人(いなば かずと)氏

中京大学法科大学院教授。東京・大阪地裁判事、法務省検事などを経て、現在本務のロースクールのほか、久留米大学医学部、熊本大学大学院などで教壇に立つ。また、日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会委員・専門委員会委員を務めている。米国に留学し、ADR(裁判外紛争解決)を研究し、メディエーションの教育者・実践者である。JICAを通じた海外の裁判所における調停制度構築のプロジェクトを進め、2012年10月にモンゴル国最高裁から「最高功労勲章」を授与された。

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