電話応対でCS向上コラム

第11回 CSRとメディエーション~勇気をもって再検討の申し入れを~

第三者が当事者同士の話し合いを促し、トラブルを解決に導くメディエーション(調停)。前回は、ある外国人労働者の賃金トラブルを例に、人間関係だけでなく、その奥に法律が関わっているケースについてお話ししました。今回は、調停のあとに、もし法律が関わっていることに気づいた場合の対処についてお話しします。トラブル収拾の極意を学び、当事者同士の相互理解を促すコミュニケーションの基本を身に付けましょう。

法的な問題の前ではCSRを念頭に置く

まずは、前回紹介した、ある外国人労働者の賃金トラブルの内容について、おさらいしましょう。

彼は会社と雇用契約を締結し、東京入国管理局から在留資格を得たうえで働いています。

彼の給料は現在、月給20万円。しかし1年前の更新の際には、月給25万円の雇用契約書が提示されていました。差額の月5万円の給料を取り戻すために、彼は調停を申し入れました。話し合いは順調に進み、双方納得のうえで、円満解決したかのように見えました。しかし、その場では、二重契約という法律的な問題には一切触れませんでした。

たとえば調停を終えたあとに、この法律的な問題に気づいたとしましょう。このような場合に、メディエーターが取るべき行動について考えてみましょう。

二重契約をしているということは、労働契約や入国管理行政上の問題がある可能性があります。しかし、メディエーションはあくまで対話を促すことで解決を図る場であり、法的な問題を扱ったり、法的な紛争問題を解決するところではありません。だからといって、社内で起きた法的な問題について、見逃しても良いのでしょうか。

公序良俗違反や、強行規定に反する社会活動は、企業としての社会的責任、つまり、CSR(Corporate Social Responsibility)に反することであり、これを社内に温存することは、企業の活性化を阻害し、長いレンジでは、企業成績にまで悪影響を与える可能性があります。それを、社内での自助的仕組みで矯正していくことは、会社がロバスト(たくましい存在)であるためには必要なことだとわたしは考えます。

会社のことを思い、再検討を申し入れる

たとえ調停は終わり、話し合いの結果に双方が満足していたとしても、上記の理由から法的な問題を見過ごすわけにはいきません。その場合には、勇気を持って、再検討の申し入れをしましょう。

その際、先方に、なぜ再検討の要請をしているのか、その理由を明確に伝えることが重要です。先方も理屈は理解してくれても、自分の立場が危うくなることを考え、簡単に納得してくれないケースもあるでしょう。その際には「あなたを追い詰めるために言っているわけではなく、会社が後に、様々な批判を受けることを避けたいという思いからです」と伝えましょう。それでも駄目でも諦めず、誠意を持って何度でもお願いをしましょう。

結果、違法行為が露見し、それがメディエ―ションを通じて暴かれたものだと社内に知られれば、調停人は、社内の監視役のように周囲から見られてしまうかもしれません。そうなれば、誰も調停で本音を話さなくなってしまう可能性もあります。ですが、そのリスクを背負ってでも、再検討の申し入れをする価値は充分にあるのです。

最初は周囲の反感を買うかもしれません。しかしそれは、長い目では会社のためになるのだ、という強い意志を持って、粘り強く活動を続けることが大切です。もしかすると、その活動は、結果的に会社の文化さえも変える可能性を秘めているのですから。

※メディエーションは、「もしもし検定」のカリキュラムに導入されています。

稲葉 一人(いなば かずと)氏

中京大学法科大学院教授。東京・大阪地裁判事、法務省検事などを経て、現在本務のロースクールのほか、久留米大学医学部、熊本大学大学院などで教壇に立つ。また、日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会委員・専門委員会委員を務めている。米国に留学し、ADR(裁判外紛争解決)を研究し、メディエーションの教育者・実践者である。JICAを通じた海外の裁判所における調停制度構築のプロジェクトを進め、2012年10月にモンゴル国最高裁から「最高功労勲章」を授与された。

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