電話応対でCS向上コラム

第10回 法律とメディエーション〜法律家に意見を求めるケース〜

第三者が当事者同士の話し合いを促し、トラブルを解決に導くメディエーション(調停)。前回は、裁判とメディエーションの着眼点の違いと、それによってもたらされる結果の違いについてお話ししました。今回は、トラブルの種類によっては人間関係だけでなく、その奥に法律が関わる場合もあります。その際にどう対処すべきかについてお話しします。トラブル収拾の極意を学び、当事者同士の相互理解を促すコミュニケーションの基本を身に付けましょう。

ある外国人労働者のケースについて

これまでに紹介したメディエーションの事例では、あまり登場しなかった法律について今回はお話ししたいと思います。トラブルの種類によっては、表面的に分からなくても、実はその奥に法律(違法な状態)が潜んでいる場合があります。

例えば、ある英国人の契約労働者の方がいるとしましょう。彼は会社と雇用契約を締結し、東京入国管理局から在留資格を得たうえで働いています。

彼は現在、月給20万円の給料を貰っています。しかし1年前の更新の際には、月給25万円の雇用契約書が提示されていました。本来貰えるはずであった5万円について彼は契約が終えようとしていることもあり、会社に申し立てをしました。

ここまでの概要を見る限りでは、コミュニケーションエラーによるミスのようにも思えます。実際に調停が始まってみれば、彼の上司も彼の働きぶりを高く評価していることが分かります。しかも、ロンドンに住む父親に会うための一時金が必要だという彼に対して、上司は2つの条件を提示しました。

ひとつは、次回契約を更新する際の給料の引き上げ。これは会社としてさかのぼって支払いをすることが難しいための処置です。ふたつ目は、社内の短期貸与制度を利用できるよう人事部に掛け合ってくれる、という内容でした。これで彼が望む一時金についても賄うことができます。

内容を見る限りでは、円満解決を迎えたように思えます。また、実際のふたりも、笑顔でこの調停を終えました。

トラブルの奥に潜む違法状態

お互いが、お互いの立場を忌憚なく述べ合い、強制されることなく合意した今回のようなケース。どこに問題があるのでしょうか。

それはまず、会社が二重の契約書を作っていた点です。もしかすると、入国管理局に対して、会社との雇用契約書を提出しないと、申し立て人である英国人の彼の在留許可は下りないのかもしれません。そのため、会社としては雇用契約書を作成する必要があった。しかし、外国人と結ぶ雇用契約書には、給料を報告しなければならず、その賃金が安いと問題が出るのかもしれません。その問題を防ぐために、会社が虚偽の契約書を作成した可能性がそこには潜んでいます。

今回の二重契約のような場合には、法的なことも踏まえ、慎重に取り扱う必要があります。こういったケースの際には、無理をせず、社会保険労務士や行政書士、さらには弁護士の助言を貰うことが大切です。

メディエーションは当事者の合意が結果として尊重されますが、とはいえ、法律に違反することが許されるわけではありません。つまり、問題の種類によっては法的な適合性も考える必要性があるのです。

しかしその全てをメディエーターが行うことは、実際、公平性という観点からも問題がありますので、その場合は法律家と適切な交流を取ると良いでしょう。

時に、調停においては、当事者が必要な情報を伝えないケースや、その事実が法的に影響を及ぼす場合もあります。注意しましょう。

※メディエーションは、「もしもし検定」のカリキュラムに導入されています。

稲葉 一人(いなば かずと)氏

中京大学法科大学院教授。東京・大阪地裁判事、法務省検事などを経て、現在本務のロースクールのほか、久留米大学医学部、熊本大学大学院などで教壇に立つ。また、日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会委員・専門委員会委員を務めている。米国に留学し、ADR(裁判外紛争解決)を研究し、メディエーションの教育者・実践者である。JICAを通じた海外の裁判所における調停制度構築のプロジェクトを進め、2012年10月にモンゴル国最高裁から「最高功労勲章」を授与された。

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