電話応対でCS向上コラム

第7回 裁判と調停の違い。メリットとデメリットを知る

第三者が当事者同士の話し合いを促し、トラブルを解決に導くメディエーション(調停)。前回は、調停人が第三者として介入することで、当事者の気持ちの整理を促す効果がある、というお話しをしました。今回は、裁判とメディエーションの違いについてお話しします。それぞれのメリットとデメリットを知ることで、より深く調停人の役割について理解できます。トラブル収拾の極意を学び、当事者同士の相互理解を促すコミュニケーションの基本を身に付けましょう。

裁判と調停は似て非なるもの

裁判と調停は、意見交換をするという点で似ているように思えます。しかし実際は、相反する特長を持つ、違ったものです。
 まず、裁判の特長について整理してみましょう。裁判は、物事の白黒がつきますし、公平な裁判所・裁判官のもとでの判断を受けることができます。また、法による解決がされるため、当事者同士の力関係に左右されない正義に沿った解決が期待できます。この特長は「公平・正義・一律・白黒」で表現できるでしょう。

さらに裁判には「波及効果」があります。裁判は公開され、判決書は基本、誰でも見ることが可能です。そのため、判決は判例として、以後、同様のケースの裁判に対しても、大きな影響を与えます。つまり裁判は、1つの判例が「波及」し、次につながる「効果」を有しているのです。

デメリットとしては、裁判は対立を対立のままに解決する、という側面があります。そのため、自分の「いいところ」を最大限に言って、相手の「悪いところ」を最大限非難するという戦略になりがちです。さらに裁判では、勝ち負けが決まるため、将来的な人間関係や職場関係にも影響を与える可能性があります。

また、裁判は法的な解決を目指すため、どうしても主役は法律家であり、当事者は脇役です。

メディエーションのメリット・デメリット

では、メディエーションの場合はどうでしょうか。調停は話し合いをする場ですので、比較的「迅速・簡便・廉価」に行えると言えます。

調停は、裁判のような対立型ではなく、当事者同士が自分たちの意見を交換し合うため、「満足感・納得感」が生まれやすい環境にあります。また、調停を通して話し合いを重ねることで、自分たちで決めたという満足感と納得感が得られ、これが当事者同士の人間関係にも良い影響を与えるケースもあります。

デメリットとしては、当事者同士の力関係が出てしまうことです。やはり一般的に言えば、企業内での力関係は、企業が強く、労働者の方が弱くなる傾向にあります。その力関係が、調停の場の雰囲気にまで影響を与える場合もあります。

次に、話し合いの内容は基本、非公開であり、一般には合意内容は公開されません。しかしケースによっては、調停を経て、その結果が社内の必要な部署で共有され、企業内ルール作りに貢献したり、ガイドラインの制定を促す場合もあります。

こうして見ていくと、裁判のメリットが、メディエーションのデメリットに。裁判のデメリットが、メディエーションのメリットになっていることが分かります。

メディエーションには、メディエーション向きの事例とそうでないものがあります。しかし、メディエーションの持つ様々な問題点は、第三者として介入するメディエーターがトレーニングを受け、配慮することで小さくすることが可能です。その意味で、メディエーターのあり方は、調停を左右する大きな要因の1つと言えます。

つまり、メディエーターには、それなりのトレーニングと実践、そして倫理が求められるのです。

※メディエションは、「もしもし検定」のカリキュラムに導入されています。

稲葉 一人(いなば かずと)氏

中京大学法科大学院教授。東京・大阪地裁判事、法務省検事などを経て、現在本務のロースクールのほか、久留米大学医学部、熊本大学大学院などで教壇に立つ。また、日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会委員・専門委員会委員を務めている。米国に留学し、ADR(裁判外紛争解決)を研究し、メディエーションの教育者・実践者である。JICAを通じた海外の裁判所における調停制度構築のプロジェクトを進め、2012年10月にモンゴル国最高裁から「最高功労勲章」を授与された。

関連記事

入会のご案内

電話応対教育とICT活用推進による、
社内の人材育成や生産性の向上に貢献致します。

ご入会のお申込みはこちら